
「若手社員は、とにかく褒めて育てるべきだ」
近年、このようなマネジメント論を耳にする機会が増えました。
確かに、第1回で解説した「定着率向上」の観点からも、良い点を認めて承認することはモチベーション向上に不可欠です。
しかし、腫れ物に触るように「褒めること」だけに偏ってしまうと、本来伝えるべき改善点が伝わらず、本人の成長機会を奪ってしまうことになりかねません。
近年では、過度に怒られない代わりに成長もできない「ゆるい職場」に不安を感じて離職する若手社員も増えています。
若手育成において本当に重要なのは、単に甘やかすことではなく、「承認(褒める)」と「育成(改善を促す)」を両立させた「適切なフィードバック」です。
今回は、若手社員を劇的に成長させるフィードバックの基本原則と、具体的な実践テクニックを解説します。
◆なぜ、若手社員に「フィードバック」が不可欠なのか?
1. 自分では気づけない「客観的な課題」が明確になるから
仕事を始めたばかりの若手社員は、自分の強みや課題を客観的に把握する引き出し(経験値)が足りません。
上司や先輩からタイムリーなフィードバックを受けることで、初めて以下の3点がクリアになります。
・「何がどこまでできているのか」(現在地)
・「どこに問題があり、どう改善すべきか」(課題)
・「次はどこを目指せばよいのか」(目標)
2. 軌道修正により「成長スピード」が圧倒的に加速するから
フィードバックがない環境では、若手は「自分のやり方が正しいのか」わからないまま五里霧中で進むか、最悪の場合は間違った方法を継続してしまいます。
定期的なフィードバックによって細かく方向修正を行うことで、無駄な回り道を減らし、成長スピードを最大化できます。
◆「褒めるだけ」の育成が抱える2つの落とし穴
❌ 自分の改善点が見えなくなる
常に肯定的な言葉ばかりをかけていると、若手は「自分はこのままで完璧なんだ」と錯覚しやすくなります。
ビジネスパーソンとしてのステップアップには、小さな成功体験だけでなく、「自分の至らなさ(課題)への気づき」という健全な危機感も欠かせません。
❌ 「本気で向き合ってくれていない」と思われる
現代の若手社員は「成長意欲」が高い人も多く、心の奥では「本当の評価を知りたい」「ダメなところは教えてほしい」と願っています。
中身のない表面的な褒め言葉ばかりを並べていると、「この上司は自分をちゃんと見てくれていない」と、かえって不信感につながる場合があります。
◆成長につながるフィードバックの「3大原則」
効果的なフィードバックを行うためには、伝え方のテクニック以前に、以下の3つの大前提を守る必要があります。
①「人格」ではなく「行動」に対して伝える
フィードバックの対象は、本人の性格や人間性ではなく、あくまで「目に見えた行動や事実」です。
❌ NG例:「仕事が雑だね」「おっちょこちょいだね」
⭕️ OK例:「提出された報告書の数値に2箇所ミスがあったよ。次は提出前に再確認しよう」
💡 ポイント
性格の否定はただのダメージになりますが、行動の指摘であれば「次からどうすればいいか」が明確なため、前向きに受け入れやすくなります。
② タイミングを逃さず「その場」で伝える
フィードバックは「鉄は熱いうちに打て」が鉄則です。
数週間前の出来事を評価面談で急に持ち出されても、本人は当時の状況を覚えていません。
業務が終わった直後や、その日のうちに伝えるのが最も効果的です。
③ 抽象論ではなく「具体化」して伝える
「この前の案件、良かったよ」「頑張っていたね」だけでは、若手は何が正解だったのか再現できません。
⭕️ 具体例:「〇〇社からの急な問い合わせに対して、嫌な顔をせず、すぐに事実関係を調べて折り返した対応が素晴かったよ。顧客も安心していたよ」
◆若手社員を伸ばす「5つのフィードバック術」
①「良い点」と「改善点」をセットで伝える(サンドイッチ型)
改善点(耳の痛い話)だけを伝えるとモチベーションが折れ、良い点だけでは現状維持になります。
これらを【 褒める(認める) ➔ 改善点を指摘する ➔ 期待を伝える 】というサンドイッチ構造で伝えます。
💬 トーク例
「今回のプレゼン資料、構成がすごく分かりやすかったよ(良い点)。その上で、グラフの数字のフォントをもう少し大きくすると、後ろの席の人も見やすくなってさらに良くなると思う(改善点)。次回の資料も期待しているよ(期待)」
②「結果」だけでなく「プロセス(行動)」も評価する
成果だけで評価を判断すると、若手社員は「失敗」を恐れて打席に立たなくなります。
結果が伴わなかったとしても、「自ら進んで新しい提案をした」「積極的に質問した」といった望ましい行動・プロセスをすくい上げて評価することで、若手は安心して次の挑戦へ向かうことができます。
③ 一方的に指示せず「なぜそう思う?」と対話する
上司が正解をすべて教えてしまうと、指示待ち人間になってしまいます。
フィードバックの場では「今回のプロジェクト、自分ではどこが上手くいって、どこが難しかったと感じる?」といった質問を投げかけ、本人の内省(振り返り)を促しましょう。
④ 見落としがちな「小さな成長」を言葉にする
若手社員はいきなり大きな成果を出せません。
「前よりExcelのショートカットが使えるようになったね」「議事録を作るスピードが上がったね」など、過去の本人と比較した成長を積極的に言葉にして伝えましょう。
⑤ フィードバックを「仕組み(定例化)」にする
年に数回の評価面談だけで人を育てるのは不可能です。
日々の声かけに加え、週次の1on1、月次の面談など、高頻度かつ継続的な対話の機会を設けることで、上司と部下の強固な信頼関係が形作られます。
◆【要注意】フィードバックで絶対に避けたい3つのNG例
❌ 人格や能力を否定する
「この仕事向いてないんじゃない?」といった感情的攻撃はNG。伝えるべきは「改善すべき行動」のみです。
❌ 他の社員と比較する
「同期の〇〇くんはもう一人立ちしているのに」という比較は、劣等感を生むだけで百害あって一利なし。比べるべきは「過去の本人」です。
❌ 自分の感情に任せて伝える(怒る)
上司のイライラをぶつける指摘は、部下に「怒られないための防御反応」を取らせるだけです。
◆適切なフィードバックが「定着率向上」につながる理由
丁寧なフィードバック文化がある職場では、若手社員の心の中に「成長実感」「上司への信頼感」「将来のキャリアの視界」というポジティブな変化が起きます。
「自分がこの会社にいる意味」を実感できるため、結果として突発的な早期離職を防ぎ、優秀な人材へと育っていきます。
まとめ
若手社員の育成において、「褒めること」は間違いなく重要です。
しかし、本当に相手の将来を思うのであれば、「耳の痛い改善点も、愛を持って具体的に伝える技術」がセットで求められます。
しかし、ここで一つ重要な問題があります。
どんなに優れたフィードバックの技術を使っても、職場の「空気」そのものがギスギスしていたら、部下は心を閉ざしてしまい、アドバイスを受け入れてくれません。
👉 次回予告
連載の最終回となる次回は、今回ご紹介した「フィードバック」を100%機能させるための絶対的な土台、『心理的安全性』の高い職場の作り方について解説します。
若手が本当にのびのびと意見を言える環境の正体に迫ります!


